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報告レポート(134回)





2010年6月2日(水)16:00〜18:30
会場:TOTO虎ノ門ビル4階大会議室(東京都港区)

■「建物全体で考えるトイレ空間のユニバーサルデザインの在り方」
〜南アルプス市健康福祉センター+大田区特別養護老人ホームたまがわの二つの事例からの試み〜」


■講師:岩崎克也氏
日建設計/設計室長 兼 フロンティア日建設計取締役

   
 今回は、設計事務所としては最大規模を誇る日建設計の岩崎克也氏より、ユニバーサルデザインを意識した2つの建築事例を通し、トイレ空間をどのように工夫したかのお話しを伺いました。普段、なかなか設計者のお話を伺う機会が少ないのですが、参加者からのメンテナンスに関する質問や提案を受けて講師の岩崎氏からも「こちらも刺激をいただいた」とのお言葉を頂戴しました。その白熱した様子を、レポートします。



1、事例@ 南アルプス市健康福祉センターの紹介

 今日は、トイレの取り組みをお話しすることになっていますが、その前に、どのような背景やコンセプトで、建築の設計を行ったかについて、ご説明します。
 まず、南アルプス市に作った健康福祉センターは、白根支所を有する他、健康づくりホールや児童館・調理実習室・会議室などをまとめた複合施設です。設計にあたり「どんな人にも使いやすい建物=五感で感じられる先進のユニバーサルデザイン」を目指しました。そこで事前にユニバーサルデザインの取り組みが先進的なデンマークに視察にも出掛け、日本のユニバーサルデザインの考え方の違いの検証にもなりました。
 まず本設計では、アクセスのしやすい骨格にするために、吹き抜けのある大きなホールを中心に、東西南北に分かれる4部分の構造にし、4面すべてで表情の異なる山並みを見られるようにしました。また南北で外壁タイルの色を変え、方角や階数を示すサインを大きくすることで、自分の位置を確認しやすくしました。また、廊下のコーナー部分の天井を高くし、床仕上げをあえて変えることにより、足音やその反響音で、聴覚が発達した方がどこにいるかをわかるように、工夫しています。またガラスで作った中身の見えるエレベータや、手すりの素材を変えて、触覚的に場所の変化を感じさせるなど、五感で感じられる工夫をしました。またスイッチや手すりの高さを90cmに統一したことも、身障者と健常者の差を感じさせない工夫として、好評を得ています。



2、天窓のあるこだわりトイレ

 トイレに対する市の力の入れようはひとかたではなく、事前に様々な身体状態の方の要望をまとめ、「電動車いすでも入れる広さが必要」「オストメイト対応が欲しい」「子供の着替える場所が欲しい」等の案が出されました。それらすべての要望を、ひとつのトイレで100%満足させるのは難しいので、求められる機能を分散して、建物全体として満たすようにしました。
 具体的には、1階の男女トイレには、検尿用の扉を付けました。またベビーベットも設置しました。2階の児童館に近い男子トイレには、幼児用の小さい便座を付けました。また和風便器は各トイレに1つずつ付けました。多機能トイレは、1階に1か所と、2階に2か所あるのですが、それぞれに便器と手すりの位置(左右勝手)を変えて、身体状態によって選べるよう、バリエーションを設けました。中にはシャワースペースを付けたトイレもあります。そしてすべてのトイレに、トップライト、ハイサイドライト、スリット窓などを設け、自然光を取り入れました。
 ところで、多機能トイレは最初、別の車いす対応トイレを取り入れる予定があったのですが、最終的にTOTOの最新パブリックトイレ「RESTROOM01(ゼロワン)」を採用しました。それはスイッチの位置やトイレットペーパーの高さが、75cmに統一していて、水平移動や動作移行がスムーズで、デザインもシンプルだったからです。このように、すべての人が使いやすいトイレの開発を、これからも考えたいと思います。



3、事例A 大田区特別養護老人ホームたまがわのトイレ

 では次に、「大田区の特別養護老人ホームたまがわ」について、ご紹介します。ここは5階建の老人ホームで、240名が入所できる巨大な施設です。ここは高齢者が長く住み続けることを目的に、設計しました。部屋は4人部屋から個室まであり、大きく4つのフロアに分かれています。その間にはそれぞれ中庭を設けており、どこからでも自然に触れられるようにしました。また中庭では時々、お祭り等も開催しています。
 そして肝心のトイレですが、普通なら部屋の中で廊下側に設置するのですが、ここではできる限り外の世界(廊下)に出てほしいという願いを込め、廊下側にするのを止めました。そこで、トイレを左右の連続する4人部屋と4人部屋の間に、一つずつ設け、便器の向きを正面向き・横向き・正面向き…と交互にはさむようにしました。そして左右どちらの部屋からも、利用ができるようにしました。これにより、身体状態により使いやすいトイレを選べるようにしたという具合です。  トイレのドアは手動でもカーテンでも締められる様にし、個室内にはガラスタイルと開閉できる狭い窓を設け、自然の光と風が入るようにしています。ドアの向かいは洗面台で正面に鏡がありますが、鏡に自然光が反射しているので、思ったより明るくなりました。
 高齢者の方がいつまでも、気持ちよく、トイレ行為を行えるといいなと思っております。




4、質問&意見交換

《南アルプス市健康センターに対して…》
質問1:換気扇はどこですか?換気扇の大きさがわかりませんが、換気回数を何回で設定して、換気扇の能力を設定しましたか?
回答1:天井面にスリット(隙間)をつくりそこを利用して天井内のファンで機械換気をしています。(換気回数は15回で設定しています。)


質問2:床の排水溝を設けていますか?
回答2:今回、一般トイレでは設けていません。(会場からは「あるべき」との意見が多かったが)設ける場合は緊急用のつもりでいますが(嘔吐物の除去など)だが、本当は水を流してほしくない場所を「流してもいい場所」と勘違いされて、乱用されると危惧するので、どうあるべきか?はまだ結論が出ていません。

質問3:トイレのドアは、手動か?自動か?どちらがふさわしいと思いますか?
回答3:手動を採用しましたが、理由はコスト面からです。個人的には自動式は向いていない気がします。ただ手すりの位置や光の取り入れ方など、ドアの開発の余地は、まだまだあると気が付きました。

《大田区特別養護老人ホームに対して…》
質問4:トイレの床材は何を使っていますか?
回答4:フローリング柄の長尺シートを敷いています。やはり水を使う空間なので木(フローリング材)の使用は控えました。ここでは床材リノリューム(木材を細かく砕いた端材物を圧縮・接着し板状に加工した天然材)を採用しました。リノリュームは、あとから上にコーティング剤を施すと汚れにくくなると感じています。
※これに対し、会場より「床材はトイレには耐薬品性(特に酸性洗剤に強いもの)がふさわしい。床材リノリュームは水や尿を吸い込むので、トイレには適さないと思うが、防汚用コートを施すことでトイレに使用することは可能だ。しかし、天然材の風合いや肌ざわり、感触がコートすることで失われ本来のリノリュームを使用する目的・機能とは違うものになってしまう。やはりドライ管理(床に水をまかない清掃)を考えると水分の浸みこみのない長尺シートが正解だと思う。更にシートの上に防汚用コーティングを施すことでより良い管理ができると思う」との指摘がありました)

質問5:遮音性(音を遮る事)はどうですか?4人部屋の間にあると8名が使う計算だが…。
回答5:完全には出来ません。ドアを閉めるなどの配慮をお願いしています。

質問6:自然換気を取り入れているそうですが、どの様な仕組みで、空気が入れ替わるのですか?
回答6:トイレ部分は換気扇を設置しています。廊下などの共用部はトイレの天井裏の空間を利用して自然の空気の流れ道を作っています。

《トイレ全般の設計に対して》
質問7:男性の小便器の手前1つに、身障者用の手すりを設けるケースが多いが、必要だと思いますか?また換気線は(下部の方が適していると思うが)なぜ上部ですか?
回答7:手すりはトイレの公共性や広さによって変わると思うが、さほど広くないなら奥でも良い気がする。トイレの換気のあり方は、もう少し研究すべきだと思います。

質問8:トイレの床で、土足ではない現場では、どんな素材がふさわしいと思うか?
回答8:まだはっきりした見解はありません。(会場からは「すぐ拭く事が大事。また汚さない配慮がベターで、特に男性の洋式便器での立ちションは主婦の悩み…」と意見が出ました)。

質問9:トイレのマナーについてどう思いますか?きれいなトイレはきれいに使われますか?
回答9:完ぺきではないかもしれませんが、「きれいに作られたトイレ」は「きれいに使われる」「きれいに維持管理される」という手応えは得ています。




5、感想

 ユニバーサルデザインは、「身障者のためのもの」というイメージが強いですが、本当は、健常者も身障者も「誰もが」使いやすいのが理想です。しかしそう頭で分かっていても、それを具現化するのは、ハードルが高いものです。そこにあえて挑戦していることは、とても素晴らしい事だと思いました。その「誰もが」の中に「トイレを維持管理する人」が入れば、より完璧になるのでしょう。
 今回の出会いにより、建築家の方にも、メンテナンスを意識したトイレの設計について、興味をもっていただき、交流が出来れば、その夢が実現する日は遠くないと感じました。

(記録:白倉正子/アントイレプランナー)


講師の岩崎克也氏(日建設計)。優しい丁寧な口調でお話し下さいました。

南アルプス市健康福祉センター。どこにいるかが一目でわかるように外装を考えたそうです。

シンプルながらも使いやすさを追求した新しいパブリックトイレ。

上部から見た形状。光を取り入れやすく上部から見た形状。光を取り入れやすく広々と使えるデザインが人気。

部屋の左右にトイレがあり、形状が違うので、トイレを選べる。

優しい光の入るトイレ。便器の向きも身体症状で選べるようになっている。

質問はいつしか議論に、そしてノウハウの共有に…。これがメンテ研の醍醐味!


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