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報告レポート(125回)





2008年9月29日(月) 15:00〜18:00
会場:INAXダヴィンチ京橋ビル2階(東京都中央区)

■「駅舎内におけるトイレの利用要因と器具使用解析に基づく、適正器具数に関する研究」
講師:仲川ゆり氏

(JR東日本研究開発センター フロンティアサービス研究所)
   
 今回は、JRの駅舎のトイレにおいて、便器や洗面台の数がどのくらいなら適切かを調査した様子や、最近話題のエキナカビジネスがトイレに与える影響を伺いました。



1、自己紹介と研究の背景
 私は学生時代に建築を学び、その後JR東日本に入社。そして駅のトイレの研究を始めました。なぜなら駅トイレは「5K」と批判され、「汚い・くさい・壊れている・怖い」については改善が進んだのにも関わらず、「込んでいる」状況は解消されないままだったからです。そこで上司の薦めもあり、05年に広島大学大学院に社会人入学をし、「駅舎内におけるトイレ利用要因と器具使用解析に基づく適正器具数に関する研究」をしはじめました。首都圏5駅のトイレの利用動向を調べるのと同時に、トイレの個室の使用時間を計るなどをし、適正な数を導き出すことに挑戦しました。
 そしてお蔭様でJR東日本の女性社員で初めて博士号を取得することができました。また50年前に作ったJR東日本(当事:国鉄)の便器数設置基準に、新たな数値を反映させることができたのです。
 そこで本日はその研究内容を発表させていただきたいと思います。



2、駅利用者(乗降者数と乗換者数)とトイレ利用数
 まず駅利用者とトイレ利用者数の関連性を分析しました。駅の利用者数は大きく@乗降者数とA乗換者とB滞在者となりますが、@乗降者は自動改札機の通過人数で把握することができるのに対し、A乗換者は駅内の移動となりますので、把握が難しいのです。そこでアンケート調査を行い、可能な限り把握する努力をしました。
 時間的には朝夕の通勤・通学のピークがあるのですが、トイレ使用のピークとそれにはあまり関係性がないことがわかりました。また土日は平日より使用頻度が少ないようです。それから夜20時以降になると、男性トイレの利用者が7.9%と昼より増えることもわかりました。これは飲酒による影響ではないかと思われます。
 次にトイレ利用率を求めました。これは一定時間内の乗降者数に対してトイレ利用者数で割った割合(%)のことで、例えばK駅では100人中3.2人(男性2.3人・女性0.9人)がトイレを利用した計算になりました。これらにより乗降者数とトイレ利用は密接な関連がある事や分かりました。ただしトイレのある位置や人の導線によって、状況が変わることもあります。



3、駅内飲食店利用者がトイレ利用に及ぼす影響
 最近JRでは、駅内に飲食店を多く設けるなどの工夫し、お客様の滞在しやすい駅を目指しております(これを「エキナカビジネス」と呼んでいます)。それにより駅利用者数に変化が生じたので、トイレ利用に及ぼす影響を調べました。駅内の飲食店では小品目提供店(例:カレー屋)の店ほど滞在時間が短く、多品目提供店(例:フードコート)ほど滞在時間が長いことが分かりました。各店舗内トイレの利用率も調べました。しかし全体的には飲食店増加とトイレ利用者数の増加にはさほど関係が無いことが判明しました。やはり通勤通学者のトイレ利用者数の方が、圧倒的に多いと再確認しました。



4、器具の使われ方の把握
 次に、トイレに来た人がどの器具を使用するか(器具使用率の把握)と、所有時間の把握をし、適正器具数の算定条件を設定することにしました。
 2004年の調査では、男性トイレで89%が小便器を、11%が大便器を利用していることがわかりました。また洗面台は95年の調査では35%の利用だったのに対し、2004年には68%に上昇していました。これは洗面台の自動センサー化による変化ではないかと思われます。女性トイレでは便器も洗面台も95%でしたが、最近はお化粧直しのために設けられたパウダールームの利用が17%もあり、お化粧直しのためだけにトイレに来る方が多いことが分かりました。これにより洗面台そのものを増やすよりパウダールームを広く設ける対策が効果的だと発見できました。
 次にトイレ使用時間ですが、例えば男性小便器の利用時間は約38秒で、女性の大便器使用は119秒だと分かりました。これは95年の調査とほとんど変化がありませんでしたが、女性パウダールームの使用は5分近い場所もあり、必要性を痛感しました。



5、適正器具数の算定
 最後に、これらの基礎データを元に、駅舎におけるトイレの適正器具数のシミュレーションをしてみました。具体的には「トイレ到着率」と「使用器具率」と「占有時間」に条件を与え、さらに人々が許容できると感じる「待ち時間」を考慮して計算するという具合です。
 すると、「男性の大便器は微増すべき」「男性の小便器は減らす傾向に」「女性大便器はもっと増やすべき」という方向性が分かりました。例えば女性トイレで以前は8個が良いと思われていたトイレは実際には14個が適切と分かりました(ちなみにそのトイレは現在11個設置されているそうですので、あと3個増えれば待ち時間で不愉快に感じにくくなるという具合です)。

● 参考資料:Y駅トイレ器具数の比較 ●
  男子大便器 男子小便器 男子洗面器 女子大便器 女子洗面器 女子化粧台
旧基準 6 18 (データなし) 8 (データなし) (データなし)
新算定 7 8 3 14 5 4
現状(2004年) 8 8 4 11 5 4


 トイレの適正器具数の算定で感じたのは、時代の変化でトイレ利用が多様化しするという事と、トイレの調査から意外な生活習慣が見えてきたということです。例えば最近は洋式トイレの利用者が増えたとか、和風便器を使えない子供が増えてきたという具合です。
 奥が深いトイレ研究ですが、今後も続けていきたいと思っています。



6、会場より
 講師の発表後、参加者との質疑応答や、参加者からの提言が行われ、以下の貴重な意見が出ました。
・換気扇の清掃があまりできていないようだ。きちんとした管理体制が必要では?
・駅のホームにトイレがあれば混雑を分散できるのではないか?
・女性の社会進出に伴い、子連れが増えたが、親子で入りやすい飲食店(例:靴を脱いでくつろげる・プレイルームがある等)が皆無なので、その近くに親子トイレ設備も併設するなど、行動パターンに即して計画してはどうか?
・多機能トイレとそれに順ずる少し広めのトイレを作って、高齢者や親子連れにとっても使いやすいトイレの選択肢を広げてはどうか?など・・・




7、感想
 女性の私は「どうして駅の女性トイレはこんなに並ぶの!?」という疑問がきっかけで、トイレの世界に入りました。今回、それを改善するためにはこんな気の遠くなる研究が必要だと知り、愕然としました。駅は時間を意識する場所なのでゆとりをもって利用できるトイレが増えて欲しいと改めて感じました。また男性中心の鉄道業界の中で、仲川さんの様な女性社員にもっと活躍して頂きたいと思いました。

(レポート担当:アントイレプランナー白倉正子)


講師の仲川ゆり氏。膨大なデータから発表をしていただきました。

時間ごとに何人の利用者が着たか、熱心に調べたそうです。

最近増えた飲食店ですが、トイレ利用者数には影響が無いそうです。

洗面台とは別に、化粧スペースを設置。混雑緩和と快適性向上を図る

メンテナンスを配慮した小便器。シンプルな形状。

久々に学問的な話を伺いました。会場からは駅舎トイレに対しての要望や提案が多かったです。


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