報告レポート(第113回)

「子連れを配慮した導線とトイレ」
(ユニバーサルデザイン・・メンテナンスは如何に?)

日時 : 平成19年4月27日(金)13:00〜15:00
場所 : INAX京橋ビル(東京都中央区)
講師 : 老田智美(株式会社NATS環境デザインネットワーク代表取締役)
      田中直人(摂南大学教授 工学博士・一級建築士)

 今年2月に宮城県名取市にオープンした大型ショッピングモール「ダイヤモン
ドシティ・エアリ」で、ユニバーサルデザインの総合監修に携わった老田智美氏
と田中直人教授をお招きし、トイレ環境のユニバーサルデザインの流れについ
てお話を伺いました。


1、トイレ環境を考えるプロセス 
    〜ユニバーサルデザインとは?〜 
 最近では「みんなトイレ」や「普通トイレ」をデザインする時に、UD(ユニバーサ
ルデザイン)の考えを取り入れています。UDとは、一人でも多くの方が使いや
すいデザインや工夫という意味です。具体的には検証実験を行い、実際に車椅
子や視覚障害など様々な障害の方のアプローチを実施した上で、障害に合わ
せた使い易さや、最適な広さなどを見つけようと努力しています。
 その結果、遠くからでも使用中か空いているかが分かりやすいドアにすると
か、壁一面にわたる大きなピクトサインが効果的であるとか、トイレの個室部分
と共用部分のタイルの大きさを変えてより見やすくすると良いなどが分かりまし
た。
 一般的に多目的トイレを作ればユニバーサルデザインだと思われがちです
が、問題解決法によって使いやすくしていくのが、本来の姿えではないかと私
たちは考えています。
 

2、大型商業施設の満足度調査より分かった事
 今まで関わった大型商業施設で、顧客(主に団塊ジュニアの世代が対象)の
満足度アンケートを実施したところ、特に多かった意見は「子供用のトイレが少
ない」でした。またベビーカーが一緒に入れるトイレが少ない、オムツ替えのス
ペースが無いなども指摘されました。
 そこで、大げさな設備を備えた車椅子用トイレをいくつも作るのではなく、「普
通トイレに少しの工夫や配慮を行い、利用できる人が増えるようにしよう」と私
たちは考えました。そこで普通トイレにベビーカーごと入れるトイレを設けたり、
多目的トイレには大人用ベットを付けたりと、機能を分担させ、利用者が状況に
応じたトイレの機能を選べるように工夫することにしました。


3、ユニバーサルデザインを取り入れたトイレの工夫
 次はどんなトイレを作ったか、具体的にお話します。
 まず、男女トイレそれぞれに和洋便器、ブースの大小、手すりの位置のバリ
エーションを設け、選択肢を用意。オストメイト(人工肛門の方)用の設備や大
人用ベットのある多目的トイレ、親が扉の外から見守る事のできる子供トイレを
設けました。
 多目的トイレでは、腰壁部分を濃い茶色に貼りわけ、白い便器や洗面器が目
立つようにしました。茶色い腰壁の上部にはモザイクタイルによる帯を設け、こ
こをたどると手すりや操作ボタンなどに行き着けるようにしています。オストメイ
トコーナーには扉を設置し、使わない時には洗面器を隠せるようにしました。
 また隣接してミルクルームを用意。ここには個室の授乳室やおむつ替えコー
ナー・父親も入れるソファのコーナー・遊具を備えたコーナーからなる6m×7m
ほどのスペースです。ここでは落ち着いた照明や円柱形のバブルユニットなど
を用いた環境演出を施しました。この手法を「スヌーズレン(snoezelen)」とい
い、欧米では重度知的障害者や新妊婦のために活用されています。これによ
り、ショッピングのストレスからリラックスできるようにしました。
 それから、トイレ利用者が買い物をした荷物をトイレ内に持ちこむのは大変な
ので、買い物カートごと一時保管できる無料コインロッカーを設け(開錠時に返
金)、安心してトイレに入れる配慮をしました。
 実際の利用が始まると、作り手が意図したことと別の使い方をされることもあ
ります。例えば床にトイレまでのガイド用のラインを引いたら、ちょうどその線に
そってトイレを待つお客様が並ぶようになったとか。また、休憩用のベンチを置
いたら、移動されてしまったということもありました。ただ単に作るだけではな
く、その後の従業員の教育なども行っていかなければならないと、学ぶ事が多
くありました。


4、トイレ以外の配慮
 「ダイヤモンドシティ・エアリ」では、トイレ以外の空間も監修を行いました。
例えば、床のカーペットは車椅子やカートを引くのには重いので、通路の両端
にはタイルの部分も作りました。それは白杖の人のガイドにもなるので一石二
鳥です。また、そこは車椅子が通る場所ということが浸透し、店舗のはみ出し
陳列がなくなるという意外な効果もありました。また、床面のカーペットの色や
素材を張り分けて主導線に誘導し、目的となる施設場所がわかりやすようにし
ました。エレベーターとエスカレーターでは上りに青、下りに赤を用いました。こ
うした工夫により施設の利用がわかりやすくなりました。
 そして、「DCアカデミー」という社員用セミナーを開き、そのなかで職員にUD
を教え広げるように、会社として取り組んでいただいております。


5、田中直人教授より… 
 デザインを総合監修した田中直人・摂南大学教授からは、「『何が顧客にとっ
て役立ち便利かは、つくってみて初めてわかる』『よいと思ってつくったものでも
改善すべきところは改善し、進化させていく』『使いかたに関する情報を伝え守
り育てていくことがUDには必要』」といったお話がありました。


6、トイレとメンテナンスのあり方について
 講演後、このような素晴らしいトイレの維持管理の仕方について、積極的な
議論を期待しておりましたが、発表内容があまり素晴らしく斬新な内容だった
だけに、視聴者からの質問や意見はUDの話題ばかりもちきりで、メンテナンス
の話題は少ししか出ませんでした。また育児経験者からは、育児とトイレのあ
り方について、具体的な提案もありました。
 坂本代表より「今後の課題はメンテナンス体制の充実だと思います。例えば
掃除道具の置き場所がバケツやぞうきん、モップが山積みでとなり、大変そう
でした。オーナーと管理者・清掃担当者がうまくコミュニケーションを図り、メンテ
ナンスできる施設にしていくことが大切です」と指摘がありました。新しい施設
ならではの問題点や課題の発見が今後出てくると思われますので、それらを
当研究会でもお手伝いできるとよいのではないかと思います。(報告者:潟Aメ
ニティ中嶋悦子・アントイレプランナー白倉正子)


講師の老田智美氏。恩師の田中直人
教授と共に、これまでの研究成果を発
表して下さった。


「子育てとトイレ」のイメージを膨らませ
る為、会員の子供達も参加してくれ
た。


トイレの入り口。
カラフルで分かりやすく。


オストメイト設備のドア。
不必要時には設備を隠しておける。


ミルクルームの様子。
子供も大人もリラックス。


買い物カートの入るコインロッカー。
トイレに荷物を持参しなくて済むので
便利で安心。


カーペット(内側)とタイル(外側)の通
路。車椅子やベビーカーには便利。


ユニバーサルデザインの権威である
田中真人教授の言葉には
重みと暖かさが感じられる

日本トイレ協会メンテナンス研究会公式HP
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