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報告レポート(109回)

これからは、若手会員が交代で定例会の様子をレポートします。

平成18年10月27日(金)
場所:INAX東京支社ビル 8階会議室

■ テーマ:おおわだ保育園1~2歳児のためのトイレ
   講師:村上八千世氏(アクトウェア研究所代表・当研究会幹事)
        http://members.aol.com/YMcomfort/
       椎名啓二氏(インテリアデザイナー・椎名啓二アトリエ)


■1.トイレづくりは人づくり・・・村上八千世氏の発表

小学生の場合、低学年から高学年にかけて排泄を「恥ずかしがる」よう
になります。その起源を探ってゆくと、幼児期のトイレットトレーニング以降
の保育者の対応も影響しているのではないかと考えています。トイレットト
レーニングまでは保育者は子どもの排泄について肯定的な態度をとりま
すが、一旦子どもが自立すると、今度は躾のために「きたない」「くさい」
「恥ずかしい」という否定的な言葉を多用するようになってゆきます。ま
た、こういう否定的な言葉はトイレ環境が汚いほど多発する可能性が高
く、後の子どもの排泄観とトイレ環境は関連しているのではないかと考え
ています。今回のおおわだ保育園のプランニングも私自身のこういう考え
が背景となっています。
 小学生向けに出前教室を行い、排泄の大切さなどを話していますが、
子どもの排泄に対する認識は「うんこなんて出なければいいのに・・」「う
んこはくさくて、汚いだけの無意味なもの」というものも少なくありません。
うんこで健康状態が分かることなどを教えると、今までと意識が変わり自
分の出したものも見てみようかなという気持ちになるようです。
ハード面の問題として施設の老朽化があります。子どもを迎えに来たお
母さんに子どもが「トイレ・・」と言うと、お母さんが「保育所のトイレは汚い
から家まで我慢しなさい・・」と言うぐらいの汚さです。小中学校のトイレの
改修はまだ進んでいますが、保育園のトイレはまだまだ悲惨な状況のと
ころが多いです。

今回おおわだ保育園のプロジェクトでは、まず保育士さんに「トイレ=汚
い場所」という考えを改めてもらうところから始めました。従来のトイレは衛
生性の確保のため、保育室とトイレを完全に区画している状態にありまし
たが、それは実はかえってトイレを汚い場所として認識していることになっ
ているのではないかと考えたからです。「トイレ=汚い場所」という考えを
保育者が持っていては、「排泄」に対するマイナスイメージも高まるのでは
ないかと思います。しかしこういう問題は保育園の関係者だけで議論して
も問題点としては認識されにくいことです。
改修前のトイレはタイル床で子どもはスリッパに履き替えて入っていまし
たが、履き替えに時間がかかり途中で漏らしてしまう子もいました。オマ
ルは中には置けないのでトイレの入り口付近に置いて使っていました。2
歳児でも大きすぎる大便器が設置されており、足が床に着かないため不
安定でした。小便器も身体がすっぽり入ってしまうような大人用のもので
した。ペーパーホルダーは子どもの頭が当たるような位置に設置されてい
ました。先生が順番を整理整頓しないと用を足している子どもと待ってい
る子どもがケンカを始める状態でした。
 保育士さんや園長先生と議論を重ねながら図のようにコンセプトをまと
めました。議論の中で一番問題になったのは、フローリングの床で保育
室とトイレを一続きにして衛生性がほんとうに保てるか、清掃作業は大変
にならないかという点でした。排泄物がこぼれやすい場所を確認しあい、
清掃方法などについても十分に検討しました。
 トイレが個室型になっていないと子どもが恥ずかしがらないかという質問
を外部の方からいただくことがありますが、幼児の場合、排泄時の恥ずか
しさが出てくるのは3歳ぐらいからですので、1−2歳児の場合は問題ない
と思っています。むしろオープンにして便器にアプローチしやすいように
し、保育士さんともコミュニケーションが取りやすくすることに重点を置くべ
きだと考えました。
 
改修後のトイレについて話します。
 大便器はどちら向きでも使えるように、ペーパーホルダーを両方に設置
しました。子どもは自分自身のスキルに合わせて前向き後ろ向きの使い
方を選んでいます。便器にアプローチしやすくなったため、オマルから便
器へ移行する月齢が早くなり、オマルを使わず便器をいきなり使い始める
子どももいます。
 子ども専用の小さな入り口を設けたり、抜け道を作ったり、壁に窓を設け
るなど楽しさを演出しました。この時期の子どもは、探索活動が盛んで狭
いところに入って行くのが好きです。
 新しいトイレでは子どもの自立が目覚しく早くなり、ひとりでトイレに行っ
て帰ってこれるようになる月齢が半年から1年早まっています。

坂本代表:お家に帰っても出来るようになったということですか?
村上:お家は大人用のトイレなので条件が違いますから、保育園でのほ
うが圧倒的に早く自立できていると思います。また、保育士さんが言うに
は、前のトイレでは便器の取り合いがあったが、今では待っている子も話
をしながら、いざこざになることがなくなったそうです。
ユーティリティ(洗濯場・物置)も動線を短くまとめました。
今回のように私のようなコーディネーターが加わって保育士さんたちに参
加してもらい、徹底的に議論しながらプランすることは、職員の方が問題
として認識できていないことを問題化し、新しい考え方で対策できる機会
であると思います。
 トイレのことを考え始めるとトイレだけでは納まらなくなります。保育室の
使い方や保育方針にまで議論が及びます。そして今回のような理論構築
の方法を保育面でも生かせるのではないかと園長先生はおっしゃってい
ます。自分たちで考えることで施設の環境を変えることができ、保育その
ものも変えることができるという自身につながったようです。

坂本代表:「今まで保育園のトイレを切り口に変える人がいなかった。
それは、デパートのトイレを切り口に変えた例と同じように、トイレを変えよ
うとするとデパートの経営方針にまでかかわってくるのと同じこと。」
村上:多くの保育園の先生の場合はトイレ改修といってもなかなかイメー
ジが湧きにくいのではないでしょうか。おおわだ保育園でも最初は園長先
生は便器などの器具を交換する程度にしか考えておられなかったようで
す。議論するうちに改修の方向性が決まっていったわけですが、改修する
ことで保育そのものが大きく変わるという確信がもてたからこそ、こういう
規模で改修が実現できたのだと思います。
 計画段階では保育士さんたちにスケール感を分かってもらうために、ダ
ンボールや机などで実寸台の模型をつくり、人形を子どもに見立てて、シ
ュミレーションを行いました。
 トイレ環境を変えれば人も変わりますし。人が変わらないと良いトイレ環
境は実現しないと思います。おおわだ保育園の場合もスタッフみんなでト
イレのことを考えたことがきっかけでスタッフの意識が変わり、保育そのも
のにも良い影響を与えています。
 おおわだ保育園の1−2歳児のためのトイレは、今年度のこども環境学
会デザイン賞を受賞いたしました。

2.デザインの視点から・・・椎名啓二さんの発表
オープントイレにするにあたって、もともと1歳児保育室と2歳児保育室
の間にあった壁を最終的に撤去し、保育室をワンルームにすることで、ど
こからでもトイレにアプローチできるようにしました。そのためトイレの改修
で始まった話ですが、保育室全体の使い方の議論にまで発展しました。
派手な色使いになっているのは、改修前の保育室に置いてあるオモチャ
や遊具など、使っている道具類にカラフルなものが多かったからです。部
分改修ですので、それらのものとの融合を考えました。
 窓は布を張ったパネルで光を遮って少し暗めにし、落ち着いた雰囲気を
出しました。照明は蛍光灯でなく白熱電球にして、雰囲気がでるようにし
ました。
 村上さんと話して、初めのうちはオープン(開放的)トイレという感覚が、
なかなか掴めませんでした。どのくらい見えていいのか、あるいは見えな
くていいのかの判断がつかなかったのです。保育室では布団を敷いてお
昼寝したり、ランチを取ったりするので、その時に、直に便器が見えてい
いのだろうかなど議論しました。その結果、ちょっと透けて見えるというよ
うにしました。壁の高さが140cmですので、大人は立っていれば中が覗
けます。

坂本代表:手洗い器は、子供用ですか。
椎名:大人用の手洗い器です。高さは1歳児用は低め、2歳児用は少し
それより高くしています。背面に水返しでメラミン板を張っています。メラミ
ンの角に丸いボッチを付けて、危険がないようにしました。
小便器のまわりの床は大判のタイルを貼り、掃除し易さと尿石の汚れが
出来ないように配慮しました。
壁にはレリーフを配し、外からの光を受けて、影のでき方など表情の変化
が感じられるような工夫をしました。
塗装作業は保育士さんたちと20名ほどで一斉にしました。当初予定した
色でない色で塗ってしまうハプニングもありましたが、それなりに味わい
のある仕上がりになりました。

坂本代表:素人さんが塗ってもいい色合いになっているのですね。
椎名:ドイツ製の塗料で、自然素材でできていて、子どもがなめても大丈
夫なものです。
職員用のトイレは今までは、子どものブースの脇にありましたが、保育士
さんが落ち着けないことと、女性ですのでプライバシーを確保したいという
ことで個別に作りました。

坂本代表:置き式の手すりは椎名さんのデザインですか。
椎名:はい。
村上:置き式の手すりは、従来オマルを使っていた子どもが、幼児用の
水洗便器に座った場合でも、オマルのときと同じように保育士さんと対面
してコミュニケーションが取れるようにしたかったので、わざわざ作ってもら
いました。
椎名:タオル掛けは、市販の洗濯バサミなどを加工して取り付けました。
村上:バーを取り付けるスペースは無く、フックにするとタオルに引っ掛け
るための紐などを縫い付ける手間が発生するので洗濯バサミ方式にし、
タオルを挟むだけでよいようにしました。これは保育士さんからのアイデア
でした。
坂本代表:皆でペンキを塗るのは、完成後も大事にしてくれるのでいいで
すね。
面白く拝見しました、ご質問がございましたらどうぞ。使いやすかったり参
加型であったり、とても素晴らしいことです。このようなやり方が、一番望
ましいやりかたですが、上辺の情報だけが一人歩きすることが心配で
す。

■3.会場より質問
質問1:公立ですか。
村上:私立です。私立ですが自治体からの補助金で賄っているので、財
政的には私立といっても余裕があるわけではありませんから、トイレの大
切さを理解し、ここまでやらせてくださったことには大変感謝しています。
今は幼稚園と保育園を一元化する動きが国の政策で始まったので、施設
を新しく建てる機会も増加すると思います。その機会にトイレにも関心が
高まってくれると良いと思います。

質問2:トイレの清掃方法はどのように指導しましたか?
村上:日常的には便器は食器用の洗剤を使用し、床は水ぶきです。便座
や便器周りの床は毎日消毒しています。床の定期メンテナンスは木床用
ワックスです。当初心配していた清掃は結局以前の水洗い清掃に比べ大
幅に省力化されました。
以上


 会場では熱心な話に皆が釘付け!


トイレ全体。カラフルでオープンです。


コンセプトをみんなで考えました。


便器がドア無しで並んでいます。


ペーパーの位置が2か所から選べる。




ユーティリティは不必要時に隠せます。


ダンボールを使って実験を繰り返した。

洗面台近辺。中が覗ける。


小便器。子供でも使いやすい高さ。


雑巾かけ。汚れをすぐ拭ける。




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