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報告レポート(122回)

2008年 5月 19日 (月) 16:00〜18:00
会場:INAX銀座ショウルーム 8階セミナールーム
     (東京都中央区京橋)

■小便器排水管内の汚れバイオフィルムについて
   講師:春山智紀 
  (無臭元工業株式会社 研究室主任研究員、環境測量士)
   
 今回は無臭元工業株式会社 研究室主任研究員の春山智紀様を
講師にお迎えし、小便器排水管内の汚れ「バイオフィルム」につい
て、その構造・形成・制御法など、具体的に解説して頂きました。

1、バイオフィルムとは
 バイオフィルムは固体表面に生成する、特有の構造を持った微生
物の共同体である。
 また、水と接するあらゆる表面に形成されることから、居住空間、
医療、海洋建造物などなど、多岐の分野で生成され、防止対策が
行われている。
 成分 96%水 3〜4%菌 残りシリカ(無機物・カルシウム)

例)川の中にある石表面のヌメリ、歯の歯垢、給水システム内に発
生するヌメリなど。
トイレ内では、小便器脱着時に配管にドロドロした物質や、配管の中
でフワフワとした物質など。

特徴:特有の3次元構造を有し、構成微生物種の働きの単なる足し
算では計れない機能を発揮。さらに、環境因子や時系列的に、その
構成種、構造、機能が変化する。

2、バイオフィルムの構造
 バイオフィルムの構造は、栄養物濃度に大きく影響を受けている
(濃度によって形が異なる)。また、体の中に水路があり、そこから
栄養を取り込み易くなっている。
 @栄養物濃度:濃い(小孔構造や水路が殆ど見られない)
 A栄養物濃度:中間(特有のキノコ状構造を持ち、これらが融合し
水路が残る) 最もよく見られる構造と考えられる。
 B栄養物濃度:低い(薄い基盤層の上にミクロコロニーがまばらに
分布)

3、バイオフィルムの形成
 一般的に次のような形成過程を持つと理解されている。
 @裸の固体表面へのイオン、有機物の付着によるコンディショニン
グフィルム(膜)の形成
 Aコンディショニングフィルムへの細菌細胞の付着
 B付着した細胞の増殖とそれに伴う細胞外ポリマー(EPS)の生産
 C他の細菌、微生物も含めた共同体としてのバイオフィルムの成
長(物によっては3cmを超える)

 水中におかれた固体表面には、ただちにコンディショニングフィル
ムが形成され、これが微生物にとっては濃縮された栄養源となり、
そこに集団を形成していく。一方で、バイオフィルムには、常に形成
を阻止する脱離作用が働いており、バイオフィルムの構造・組成・機
能は時々刻々と動的に変化している(汚れた水だと速度が速い)。

3、EPS(菌体外多糖類)
 植物病原菌など、バイオフィルムの集合体を形成し、さまざまなス
トレスから身を守る重要な役割を担っているのがEPSである。
 微生物は、細胞の外に種々の物質を生成するが、そのなかでも糖
類を主成分とした菌体外多糖類は、多くの微生物に幅広く存在して
おり、(基本的な)バイオフィルムとして捉えられている。

4、バイオフィルムの多細胞的振舞いと
  クオラムセンシング
 バイオフィルムは、多細胞生物とは似て非なる集団であり、特異な
能力を持つ。その一つが、「遺伝情報の水平伝達能」である(種を越
えた遺伝子情報の伝達・管理機構と環境変化対応能を有する)。つ
まり、外部からのストレスに対し、どんどん強くなるということ。(例:
実験段階で効果のあった薬品が、時間の経過とともに、ストレスに
対して抵抗力を上げ、その薬品が効かなくなることがある。)
 また、クオラムセンシングとは、一部の真正細菌に見られる、自分
と同種の菌の生息密度を感知して、それに応じて物質の産生をコン
トロールする機構のこと。これにより「定足数」を認識し、ある一定以
上の大きさにはならない。
 そして、増殖初期など細菌の密度が低い場合は、周囲のAI濃度
(オートインデューサー:シグナル物質)も低いが、細菌が増殖・集合
を繰り返して菌体密度が上昇すると、AIの局所濃度も上昇し、閾値
を超えると細菌は、菌体密度がクオララムに達したことを感知して、
さまざまな遺伝子の発現を活性化させる。

5、居住空間におけるバイオフィルム
 生活水準の向上に伴い、「快適性」という概念が広まり、限られた
居住空間でできるだけ気持ちよく、清潔に生活したいとの意識が高
まってきた。これに伴い、浴室や洗面所、台所などに発生するバイ
オフィルム(ヌメリ)が問題になるようになってきた。

 @浴室の床や壁面のタイル目地付近にヌルヌルとした付着物が発
生し、除去しても再発する。
 A食器水きり用の受け皿の底に、褐色のドロドロした寒天質のも
のが溜まり、1週間程度で再発する。
 Bトイレ洗浄水の流れ水がピンクに染まり、清掃しても直ぐに再発
する。

 これらは、常に水が滞留している部分や水の通り道に発生してお
り、単に水を流すだけでは容易に剥離されなかった。

 
6、バイオフィルムの形成防止と除去技術
 微生物制御の中核要素は、標的微生物と制御対象物、そして適
用制御法である。これらの3要素間では相互に特性上の関係があ
り、これを考慮しなければならない。
 例えば、加熱処理は有効であるが、食品に利用すれば品質低下
を起こす。さらに経済性、簡便性、人体に対する安全性、環境への
適合性を考慮しなければならない。

 ■制御の種類は次の4つに大別できる。
  1.殺菌:微生物の生存性を失わせること
  2.静菌:微生物の発育を阻害すること
  3.除菌:制御対象系から微生物を系外に移すこと
    (殺菌と混合され易いので注意)
  4.遮断:系外に存在する微生物が制御対象系内へ
    侵入するのを阻止すること。

 ■形成過程での制御
  1.表面コンディショニングにおける対策
  2.微生物移動への干渉
  3.可逆的吸着の阻害
  4.脱着の促進
  5.不可逆吸着の阻止
  6.増殖とポリマー生産の制御
  7.脱離
 ※但し、決め手はないので、設計段階で、配水管の継ぎ手を
   無くすなどの工夫が必要か!?

 ■具体的な方策
  1.表面改質による形成防止技術(制御対象視点)
  2.設計や装置
  3.洗浄によるバイオフィルム除去技術
  4.脱離・分離による除去技術
  5.バイオフィルム形成阻害剤

7、バイオフィルムのモニタリング技術
  1.一般細菌培養法
  2.顕微鏡を用いた検査法
  3.電子顕微鏡を用いた検査法
  4.共焦点レーザー顕微鏡を用いる検査法
  5.インピーダンス法
  6.ATP法
 
8、感想
 バイオフィルムがこんなにも生活に侵入してきているものとは驚き
でした。そして、バイオフィルムをバイオフィルムとして捉え、認識し
なければ、ただの汚れであったかもしれません。
 一方、トイレ環境においても、衛生陶器周り、配水管内においては
バイオフィルムが生成しており、その問題点を軽視することはできま
せん。しかし、バイオフィルムの特徴である「遺伝情報の水平伝達
能」などがあり、その対ストレスの防御率の高さが除去を困難にして
いる現実もあります。
 バイオフィルムは生成させないか、生成されても初期の段階で除
去・殺滅する重要性を認識しました。
                    (株式会社アメニティ 内田康治)



講師の春山智紀先生




講義の様子。
春山さんの分かりやす説明に
メモを取るのも忘れ集中力。



白板にイラストを描きながら解説




人工的にバイオフィルムを
形成する様子を描いた
(残念ながら見えませんね)


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