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報告レポート(134回)


2010年9月28日(水)15:00〜18:30
会場:TOTO鞄結梹x社(東京都新宿区新宿)

■TOTOパブリックトイレの創造開発プロセス」
〜魅力品質の創造がキーワード
〜」

■講師:長谷 寛氏
TOTO(株)マーケティング本部商品企画推進部

 今回はTOTO梶i以下:TOTO)の中で長年、パブリック(家庭用ではなく公共性の高い場所のトイレ)の商品開発に従事されてこられた長谷寛さんに、商品作りへの情熱や魅力、そして苦労話等を伺いました。特に08年に発表された「RESTROOM ITEM 01(ゼロワン)」のお話には会場が釘付けになりました。その後は会員会議を行いました


1、自己紹介とTOTOの
  パブリックトイレの概要

 私はTOTOに勤務して23年になります。その間、主に公共性の高いパブリック用商品の開発や企画に関わってきました。ここであえて「開発」と「企画」と分けるのには理由があります。今日はそのあたりを実例と共にお話します。

 まずTOTOは、北九州の小倉に本社があり創業93年になります。全国に13支社と9工場があり、年間で約4200億円の売り上げがあります。その中でトイレ事業は約2000億円で、さらにパブリックトイレ事業に関しては約600億円です(他社含めたパブリックトイレの市場規模は約1000億円と言ってもいいでしょう)

トイレ空間の位置付けは、以前の3K(きたない・くさい・くらい)から、近年では4K(Clear.Clean.Comfortable.Charming=明るい・きれい・快適・魅力的)が求められています。具体的には「洋式便器中心・温水洗浄便座の普及・自動化・擬音装置や手すりなどの設置の増加」など、リフレッシュ空間へと変貌してきました。また建築自体も、空間的演出が増え、ビルに入った時に開放的で美しさを求める傾向にあります。これからのパブリックトイレ空間はそんな開放的な建築物の延長になければいけません。


2、パブリックトイレ商品の
  開発経緯と商品誕生の裏側

ところで、モノ創りの最初は「企画」と「開発」から始まります。「企画」とは、こんな商品が欲しいというイメージや理想を整理し商品化のアイディアをまとめることで、それを実際に作るのが「開発」です。私は入社当初、開発の仕事をしてきましたが、様々な現場で感じたことを形にしたいと思うようになり、次第に企画から着手するようになりました。そして最初は「こんなのは無理だ」と社内で批判された案を「できる理由」に変える努力をしてきました。

具体的な企画〜開発の事例では、ビルなどの和式便器を洋式便器に短時間(2日間)1フロア施工でリモデルするシステムを完成させました。通常これらの工事には数日かかり、その間トイレの使用ができないどころか、下階の方にも影響が出るという状況でした。そこで私は和便器の床埋め込み部分をそのままにしながら給排水を埋め込み、独自開発した超速硬モルタルを埋め込み、翌日には洋式便器を設置できるようにしたのです。この商品化、施工体制構築までには4年の期間を要しました。もちろん特許も出願しています。これにより発売以来、市場に存在する不要な和便器約4万台に対し腰掛便器+ウォシュレットにリモデルし、お客様に快適にご使用頂いております(売上は約100億円になっています)。和便器は市場に500万個以上ありますので、まだまだリモデルは続きます。

以上のように商品の構想から販売まで、一連の流れに着手する経験が出来ました。
 

3、ものづくりとは?
  魅力的品質の創造を実現するまで…

ところで、商品企画とは一体どんなことでしょう?

私は「魅力的品質の創造」だと思っています。つまり商品の本来の目的に、いかに付加価値を与えるかで、顧客のニーズに応えることができると言えるのです。他社よりも○○が□□だけ優っているという比較次元の見える商品では顧客のニーズにいつまでも応えているとは言えません。

では新たな企画から具体的にどのように商品ができるのでしょうか?たとえばTOTOの場合、「研究」「開発」「営業」「販売企画」「マーケティング」などの多く部門と連携を取り、様々な審査会を経て、商品化に到達します。その間、目的・セールスポイント・価格・クレーム対応などが、社内できちんと説明できなくてはなりません。

また企画時の配慮ポイントとして、環境配慮・衛生性配慮・UD配慮(UD=ユニバーサルデザイン/誰でも使いやすい工夫や配慮)はもちろん、利用者の快適性配慮・デザイン性配慮・使用者配慮・保全性配慮・安全性配慮・施工性配慮…などなど、他にもありますがたくさんの配慮が必要です。さらにこの一つ一つの中に、多数の細かい項目があり、それらをクリアしているか?を確認していくのです。この中で維持管理に関する配慮は、「保全性配慮」に分類され、日常メンテナンスがしやすいか?トラブル対応が容易か?などが、盛り込まれています。

これらの開発は「お客様の声」からすべてが始まります。商品化においてはデザインレビュー(=設計の再検討)を行います。歴史(過去の商品)に学び、他部門の知見者から学ぶ事を通じて、未然にクレームを防ぐことが出来たり、ニーズとミスマッチ商品の撲滅につながります。


4、次元なき高評価への挑戦
   〜「RESTROOM ITEM O1」の開発〜

私はこれらの経験を受け、2004年に新たなチャレンジに踏み切りました。それは妥協なきパブリックトイレの商品開発です。私はこれを「次元なき高評価への挑戦」と呼んでいます。

それまでのTOTOのパブリック事業は、新築着工の減少などにより危機に追い込まれていました。そこで技術力にたよる商品ではなく、感性に訴え「何かすごい!」と言いたくなる販売力のある商品創りに向け、斬新な発想で更なる価値向上を求めたのです。そこで私達は、多くの建築家と語らい、建築物に触れました。そこでこれまでの商品単品の個別開発の視点を切り離し、空間全体で考える視点をもち、何度もヒヤリングを繰り返して、全社を横断する大プロジェクトに乗り出したのです。そこで「統一」「調和」「ユニバーサルデザイン」「エコロジー」を重視した上で、デザインと機能を同時に追求する…という考えに到達しました。そしておよそ4年間をかけ、2008年ついに「RESTROOM ITEM 01」の誕生に至ったのです。

 「RESTROOM ITEM 01」とは、公共トイレの理想を追求したもので、便器の形状からリモコンの形、多目的トイレのカウンターの高さ、オストメイト対応機具の有り方にいたるまで、細部にこだわり、目標のデザインを貫きました。具体的に紹介しますと、小便器の開発では自動洗浄のセンサー(黒窓)が見えないようにマイクロ波センサー(電子レンジの波長域と同等の電波)を業界初で導入しました。これにより人の体動と尿流時間の検出し、それに応じた小便器洗浄水量を決定できるようになり、無駄な洗浄水を制御できるようになりました。また形状は上部のひさしを無くし、直線的なラインで、アプローチしやすい低リップにし、同時に手すりのデザインも同時に見直しました(編者追記:会場から「この形では、尿が跳ねるのではないか?またスクリーン効果(目隠し)が無いので、利用者の抵抗があるのではないか?」と意見が出ましたが、「スクリーン効果はあえて排除しました。だから逆に横から見られないように一歩前進するようにして下さるので、尿タレや跳ねが減少している」という返答があり、一同思わず納得でした…)。

 それから多目的トイレ空間の苦労話をご披露すると、便器や洗面台をつなぐカウンターを設けたのですが、その高さを750oにすべきという研究結果を得ました。これまでのトイレでは、カウンターの高さの定義が特に無く、水洗金具などの設備や制御部品を隠すために壁内に隠ぺいしていたことによる設計で、実は利用者のことを深く考えていませんでした。しかしTOTOのユニバーサルデザイン研究所(茅ケ崎市)で、数多くの車いす使用者のモニターを実施した結果を分析し、様々な検証を行った結果、750oがふさわしいという考えに至りました。その結果、車いすに座りながらでも荷物が置きやすいとか、体を背面に反らして排泄準備をなさる方にとって壁にぶつからずに済むようになったとか、手が不自由な方にとって洗浄ボタン操作が押しやすくなった…などが明らかになりました。これらの開発には弊社の各開発者が50名以上関わりました。中には理想と現実のはざまでぶつかりあったり、メーカーとして譲れない一線を必死に守ったり…と、議論は尽きませんでした。しかしお陰さまで開発者達のものづくりへの情熱を、一つの形にまとめることが出来たと実感しています。

開発エピソードは尽きませんが、とにかく本気で取り組んで良かったと思っています。このトイレが公共トイレの世界を引っ張ってほしいと願っています。

ご清聴ありがとうございました。


5、質疑・応答・感想

 会場からは「とても関心した」「工夫がすごい」など、感嘆の声が漏れていました。

Q1:便器では陶器以外の物は使わないのですか?
A1:他社では別の素材で作っている物もありますが、我が社は水との相性にこだわりと自信を持っていますので今後も陶器にこだわり続けると思います。

 
Q2:清掃やメンテナンスについてはどう考えていますか?
A2:清掃は従来品と同等です。今後はもっとメンテナンスを重視した研究をしたいと思います。


A3:海外での設置実例はありますか?
Q3:まだありません。価格的な課題があるので、今後検討したいものです。

 
Q4:空調の対策はどうしていますか??空気の流れはどうしたらよいと思いますか?

A4:空調は建築の分野の課題ですが、空間で考える研究を今後も続けたいです。

Q5:女性のスタッフはどのくらい関わっていますか?

A5:開発部門としては5%程度、マーケティング部門は30%程度です。今後もっと増えて行くと思います。


6、最後に

長谷さんの自信に満ちた講演に「さすがTOTO!」と感動しました。1万人以上もいる企業の中で、横断的に社内をまとめていく力は、相当な苦労があったことと思いますが、長谷さんのお人柄によって成功したのではないかと思いました。しかしこうした利用者重視の空間的視点が最近になって真剣に取り組まれていたと知り、さらにメンテナンスの研究はまだ黎明期と伺い、ちょっとビックリしました。今後、メンテ研とも連携し、清掃員の1000名モニターをするなど、更なる研究が進めば良いなあと思いました。(記録者:白倉正子/アントイレプランナー代表)


(記録:白倉正子/アントイレプランナー)

 

講師の長谷寛氏。気さくながらも開発者としてのプライドを感じる熱の入った講演でした。


長谷さんの大ヒット開発は、和便器を短時間で洋式便器に交換できるシステム。今でも多くの人に喜ばれています。


TOTO93年間の歴史とこだわりが、商品に魂を込めます。

「RESTROOM ITEM 01」は、スッキリしたデザインながらも、使いやすさにこだわっています。


小便器はシンプルながらも存在感がある。
 

カウンターを750mmにしたら、身体障害者の体が楽に動かせるようになりました。

参加者の中には、北海道からわざわざお越しになった方もいました。

 


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